知ってるつもりのプラークコントロール

1998年8月30日(日)
よみうり文化ホール(大阪・千里)で開催されました。


プログラム

9:30AM〜10:00AM 何のためのプラークコントロールか
岡 賢二(本研究会運営委員)

10:00AM〜12:30PM データと症例を通してプラークコントロールを考える
熊谷 崇(本研究会運営委員)

1:20PM〜 1:40PM 会務報告など

1:40PM〜 3:40PM 現代の臨床におけるプラークコントロールの考え方
恵比須繁之(本研究会会員・大阪大学歯学部教授)

4:00PM〜 5:00PM ディスカッション 座長:岡 賢二


事後抄録

岡 賢二(9:30am〜10:00am)

何のためのプラークコントロールか 吹田市開業/本研究会運営委員 岡 賢二

齲蝕や歯周病は、単純に図式化すれば、「細菌の攻撃」と「宿主防御」のバランスの変化によって発症・進行が左右される疾患です。

攻撃側の個々の細菌や防御側の要素(齲蝕は唾液、歯周病は免疫など)についての理解が、近年深まってきてます。歯科疾患は、従来進行した疾患の処置を中心に進められてきましたが、病因が明らかになったことにより疾患の予防や発症初期の治療が、十分な予知性をもって効果的に行えるような環境が整いつつあります。

今回の講演会「知ってるつもりのプラークコントロール」では、「細菌の攻撃」そしてそれをふまえて歯科医療の根幹ともいうべきプラークコントロールについて、科学的な背景を恵比須繁之先生から講演していただきます。

プラークコントロールは、歯科医療の根幹ともいうべきものですが、ともすれば歯肉縁上のブラッシングに矮小化される傾向があり、その内容も「ブラッシングをガンバル」というような、患者さんの個体差や病態による方法の選択、部位特異的な目的・方法を無視したアプローチをみかけることも珍しくありません。私たちが十分に知っているはずのプラークコントロールについて、改めて理解を深めることにより、病因論を踏まえた効果的な治療・予防プログラムを組み立てることが可能になるでしょう。


熊谷 崇(10:00am〜12:30pm)

データと症例を通してプラークコントロールを考える 酒田市開業/本研究会運営委員 熊谷崇

齲蝕も歯周病も細菌感染症であることはすでに知られている事実です。私たちは齲蝕や歯周病の予防や治療を考えるとき、それらの病原菌が住み着いているプラークをターゲットに、問題解決を図ろうと考え実践してきました。プラークをコントロールすることが予防でもあり治療でもあると考えたからです。しかしながら、振り返って考えると、この「プラークコントロール」という言葉が、これまであまりにも曖昧に使われてきたのではないかと思われてなりません。これは、齲蝕や歯周病の成り立ちや進行のメカニズムを十分に認識するようになると、より強く感じられるようになりました。また、齲蝕や歯周病の様々の進行段階の多数の患者の長期経過において、その進行をくい止めたり発症を予防したりする経験を通して、齲蝕や歯周病の治療や予防におけるプラークコントロールの役割や方法を、私自身の臨床においてはある程度確立できたような気がしています。

口腔内のプラークをコントロールするということは、病原となる細菌が含まれている可能性のあるプラークを、歯肉縁上縁下において病気を発症したり再発させないレベルにコントロールすることです。このためには、患者自身が日常生活の中で行うものと、歯科医師や歯科衛生士が治療や予防の目的で専門的に関わる二つの方法があり、それぞれがうまく実行されることで、プラークコントロールが達成されます。

私たちは、これまで患者自身が行う方法をパーソナルケア、医院で行われるものをプロフェショナルケアと呼び、患者の役割と医院の役割を明確にして対応することを求めてきました。そのため、患者自身には、それぞれの口腔の状態にあわせたコントロールを、歯ブラシ、歯磨剤、歯間ブラシ、デンタルフロス、マウスリンスなどを使って有効に行えるように指導してきました。また、医院においては、歯科衛生士によるスケーリング・ルートプレーニング、歯周デブライドメント、ポケットイリゲーション、抗生剤の貼薬、P.T.C. またはP.M.T.C.などをプロフェショナルケアとして位置づけてきました。

これらの方法が適切に行われることで、多くの患者が非常に安定した状態に保たれている例は多数にのぼります。しかしながら、歯科疾患の発症や進行に影響を及ぼす大きな要因が宿主側にあることが明らかにされてきています。また、リスクファクターの存在も見逃すことはできません。

そのような歯科疾患の発症や進行に関わる様々な要因を、患者個人個人において理解せずに、画一的なプラークコントロールで対応していたのでは予知性の高い治療結果や効率のいい予防効果が得られません。

もう一つ、最近の歯科医学の進歩によって、プラークコントロールの根本における認識の変換を迫られるようになりました。それは、これまで私たちが口腔内のコントロールのターゲットとしてきた「プラーク」と総称している細菌集団への新しい認識です。今日の歯科医学では、これまで私たちがプラークと呼んできた細菌集団を、「バイオフィルム」という新しい概念でとらえるようになりました。「バイオフィルム」とは、ただ単なる細菌集団ではなく、細菌相互が結びつくことで他の細菌の侵入を防いだり、抗生剤などに強い抵抗力を持つ仕組みを備えている集団を総称しています。このため、齲蝕や歯周病の治療や予防においては、単なるプラークのコントロールではなく、「バイオフィルムの破壊」をターゲットにした予防や治療が必要とされてきています。


恵比須 繁之(1:40pm〜3:40pm)

現代の臨床におけるプラークコントロールの考え方
大阪大学歯学部教授/本研究会会員 恵比須 繁之

齲蝕や歯周病はプラーク細菌に起因する感染症ですが、病原性の強い細菌によるいわゆる古典的感染症ではなく、病原性の弱い細菌による内因性混合感染症です。これらの疾患の発症には原因細菌群の存在が不可欠ですが、細菌のみが疾患の活動性を決定するのではなく、宿主の局所ならびに全身的状態と反応性が病気の進行度と強い関連性を持ちます。したがって、プラーク細菌感染症の予防や治療を行う際には、常に原因細菌群と宿主の両方に目を配る必要があります。

咀嚼運動や唾液の物理的および化学的排除機構が存在するにもかかわらず、歯面上には1〜2×1011(プラーク1g当たり)もの細菌が存在しており、独特の生態系を形成しています。このプラーク細菌叢を顕微鏡を通して観察してもらいながら、現時点で明らかになっているプラーク形成機構について解説いたします。そして、デンタルプラークの実態を踏まえたプラークコントロールについて考えてみましょう。なお、プラークコントロールを考える際には、「細菌バイオフィルム」という視点からデンタルプラークをとらえるとともに、「バイオフィルム感染症」という概念を理解する必要があると考えています。


会場風景
講演風景1

会場風景2 講演風景1

講演風景2