COの検出基準から「探針」消える

社団法人日本学校歯科医会(西連寺愛憲会長)は,2月の理事会で学校の歯科健康診断におけるCおよびCOの検出基準から「探針を用いる」条件をすべて削除し,このほど加盟各団体に通知しました.

歯科健診におけるCOの検出基準は,「探針でう蝕とは判定できないが,う蝕の初期症状を疑わしめる所見を有するもの」とされ,要観察歯の概念の普及にあたってもなお,探針の使用を求めてきました.またC1の検出基準は,これまで「‥‥小窩裂溝においては,単なるsticky感だけの触知程度ではう蝕とせず,探針先にエナメル質の軟化した実質欠損が認められるものをCとする」「‥‥平滑面において,白斑‥‥などの所見があっても,エナメル質の軟化した実質欠損が認められない場合にはう蝕としない」「‥‥隣接面では,探針を軽く挿入して軟化したう窩を探り得た場合にう蝕とする」とされていました.この基準に従うと表層下脱灰の進行したエナメル質表層をあえて探針で破壊する結果となってしまいます.ちなみに予防歯科の研究者の間では,早期発見即治療が推奨され,フィールド調査においても探針の先端を鋭利に研磨することが求められてきた経緯があり,初期う蝕の精査によってかえって実質欠損がつくられてきた可能性が高いと言えます.

本会は設立と同時にこの探針使用の弊害を指摘し,小児・保存・予防の教授・助教授・講師合計306人を対象に理解度・考え方の調査を実施しました(1998年3月).最終回収率は30%と低調であったものの回答者からは前向きの評価が集まりました.調査から2カ月後には結果報告を研究者に送付し調査報告会も開催しました.健診時の探針使用の是非をめぐる本会の一連の活動に対しては,わが国の予防歯科・カリオロジーの遅れに一石を投じたとの賛同とともに,健診の現場に混乱をもたらすものだとの非難も少なくありませんでした.

こうした活動を受けて日本口腔衛生学会は,作業部会を設けて探針使用の適否に関する文献のメタアナリシスを行い同学会誌に報告しました.今回の検出基準の変更に際しては,日本学校歯科医会は「カリオロジーに基づく探針使用の問題が多くの場で討議され」たことを認めています.同会の加盟団体あての通知およびCOの検出基準の新旧対照は以下をご参照ください.

日本学校歯科医会「初期う蝕」及び「要観察歯=CO」の検出基準の変更


社団法人 日本学校歯科医会
会長 西連寺 愛憲

「初期う蝕」及び「要観察歯=CO」の検出基準の変更について

 年度末の候、本年はいつになく早く桜の開花の便りが届いておりますが、貴職におかれましては、変わらずご健勝にてご活躍のこととお喜び申し上げます。

 さて、本会では昭和62年度の学術委員会の答申を受けて翌昭和63年度から「初期う蝕」の検出基準と「要観察歯=CO」(以下COという)の基準を定め提唱しておりましたが、平成7年度の学校健康診断(歯科)の一部改正から学校での健康診断が歯・口腔機能の健全育成を目的としたスクリーニングであることが前面に打ち出されたのを受けて、Cの度数分類をしないこと並びにCOが正式に取り入れられました。

 以降7年が経ち、歯・口腔の健全育成の思想が普及定着して来たところですが、この間、カリオロジーに基づく探針使用の問題が多くの場で討議されるようになって参りました。

 そこで、本会といたしましても探針の使用方法について論議を深めました結果、C及びCOの検出基準から「探針を用いて」の一文を削除し、視診での検出を主とした別紙のような基準に変更することといたしました。

 しかしながら、学校の健康診断に於いては、探針を用いなければならない場面も多くありますので、探針の使用を全面的に否定するものではありません。 また、この件は文部科学省との調整も途中でありますので、国で示す学校健康診断(歯科)様式例及び同様式裏の注意書きも正式に変更されておりません。

 つきましては、平成14年度の1年間をかけて貴会会員へこの主旨の普及と周知徹底をしていただき、できるだけ近い将来に新たな基準による健康診断を行っていただけるように、ご協力の程をお願い申し上げます。

 この件につきましては、現在「歯・口腔の健康診断と事後処置の留意点-CO・GOを中心に-」という冊子を作成中で、その中にも触れられており、6月頃には全会員へ配布できる予定でおります。


(別紙)

COの検出基準の改正について
平成14年2月20日 社団法人日本学校歯科医会理事会にて決定

う歯(C)及び要観察歯(CO)の検出基準(改正後)

  1. う歯(C)の検出基準
    う歯(C):
    (1)咬合面または頬面、舌面の小窩裂溝において、視診にて歯質にう蝕性病変と思われる実質欠損(う窩)が認められるもの
    (2)隣接面では、明らかな実質欠損(う窩)を認めた場合にう蝕とする
    (3)平滑面においては、白斑、褐色斑、変色着色などの所見があっても、歯質に実質欠損が認められない場合にはう蝕とはしない
     なお、診査の時点で明らかにう蝕と判定できない場合は、次に示す要観察歯とする。
  2. 要観察歯(CO)の基準
    要観察歯(CO):主として視診にてう窩は認められないが、う蝕の初期症状(病変)を疑わしめる所見を有するもの
     このような歯は経過観察を要するものとして、要観察歯(questionable caries under observation)とし、略記号のCO(シーオー)を用いる。
     具体的には、次のものが該当する。
    (1)小窩裂溝において、エナメル質の実質欠損が認められないが、褐色窩溝等が認められるもの
    (2)平滑面において、脱灰を疑わしめる白濁や褐色斑等が認められるが、エナメル質の実質欠損(う窩)の確認が明らかでないもの
    (3)精密検査を要するう蝕様病変のあるもの(特に隣接面)
  1. 「初期う蝕」の検出基準(現行)
    C1:探針を用いてエナメル質に軟化した実質欠損がみとめられるもの(歯)
      咬合面または頬面、舌面小窩の小窩裂溝においては、単なるsticky感だけの触知程度ではう蝕とせず、探針先にエナメル質の軟化した実質欠損が認められるものをCとする。
     平滑面において、白斑、褐色斑、変色面、粗造面、着色などの所見があっても、エナメル質の軟化した実質欠損が認められない場合にはう蝕とはしない。
     隣接面では、探針を軽く挿入して軟化したう窩を探り得た場合にう蝕とする。 診査の時点で明らかにう蝕と判定できない場合は、次に示す要観察歯として判定する。
  2. 要観察歯の基準
    CO:探針でう蝕とは判定できないが、う蝕の初期症状(病変)を疑わしめる所見を有するもの(歯)
     このような歯は経過観察を要するものとして、要観察歯(questionable caries for observation)とし、略記号のCO(シーオー)を用いる。
    このう蝕疑問型としては、次のものが該当する。
    (1)小窩裂溝において、エナメル質の軟化した実質欠損が認められないが、褐色窩溝およびsticky感が触知されるもの
    (2)平滑面において、歯質脱灰を疑わしめる白濁や褐色斑が認められるが、エナメル質の軟化した実質欠損の確認が明らかでないもの
    (3)精密検査を要するう蝕様病変のあるもの