第3回学術講演会

国際シンポジウム カリエスフリーを育てる歯科医療 講演概略

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熊谷 崇

3月13日 10:00 AM〜12:00 PM

症例と臨床疫学のデータから語る
従来の歯科医療とこれからの歯科医療熊谷講演風景

むし歯の洪水と呼ばれた時代と比較すれば,小児の齲蝕は明らかに減少している.口腔の健康に関する情報量も増え,少子社会の親の行き届いた育児によって,多くのカリエスフリーの子どもたちが生まれはじめている.こうした傾向は健康を守る歯科医療の推進を願う私たち歯科医療関係者によって嬉しいことではあるが,まだまだ手放しで喜ぶことのできない現実も多く存在する.たとえば小児のカリエスフリーが着実に増えていく反面,中・高生以降の生徒たちや20歳代の若者の口腔内がみるみる修復物であふれていく現実がある.このような現象は,齲蝕由来型の歯牙の喪失が中年期以降に多く生じる原因となり,高齢者となったときに不自由な食生活を余儀なくされることにつながってゆくであろう.

私の診療室においても,中・高生の口腔内の管理は悩みの種である.小学生までは親子ともに非常に熱心に予防的な対応を続け,カリエスフリーの永久歯列の完成を達成した子どもであっても,中学生以降は勉強や部活動に時間的に拘束され,子どもの心の自立の時期を境に,なぜか親子とも口腔の健康に無関心になってしまう傾向がある.こうした現実を私たち歯科医療者はどのようにとらえたらよいのであろうか.

健康な口腔を生涯維持するためには,若年期における適切な対応が不可欠である.このことを再認識するためには,現在の日本の口腔疾患の疾病構造をきちんと理解しておくことが大切である.

今回は私の診療室における多くのデータを分析した結果を提示し,日本の口腔疾患の疾病構造に具体的に迫り,どのようなことが日本の歯科医療にとって問題であるのかを問いかけたいと考えている.


Jacob Martien ('Bob') ten Cate

3月13日 1:00 PM〜3:15 PM

この四半世紀におけるカリオロジーの臨床への浸透,とくにオランダの場合J.M.ten Cateの様子

一世代前,齲蝕診断は修復治療と密接にリンクしていた.患者の半年に1回の来院時に,歯科医はすべての歯面をチェックし,たくさんの新しい齲蝕の徴候を見つけたものである.いかに速く齲蝕が進行するかを知っていたので,歯科医はほとんど常に即座にある種の修復を行うことを決定した.齲蝕の罹患率が高かったため,治療をするべきかどうかというボーダーラインのケースはほとんどなかった.同様に,支台歯形成によって歯牙組織に不可逆的なダメージを与えるということや,修復物の医原性因子が関心を集めることはなかった.今日,齲蝕診断は使われた方法論や物理的な性質のみならず疾病の成立に関する知識に基づいた科学となった.

齲蝕診断と治療計画との間に,もう一つの分野が現れてきた.齲蝕リスク評価である.これは集団レベルであったり,特定の歯牙歯面レベルであったりするが,単に現状を分析することのみならず,他のパラメーターに基づいて将来の齲蝕の進行を予測するものである.

カリオロジーの科学とそれが臨床に浸透した現在の姿を紹介する.
 

3月14日 10:15 AM〜12:15 PM

初期齲蝕の脱灰・再石灰化のメカニズムを踏まえた診査法と臨床

フッ素が齲蝕を減少させるメカニズムについては多くの考え方があった.現在ではフッ素の作用には主に二つあることが知られている.その二つの主な作用とは,脱灰の制御と再石灰化の促進である.

長年にわたり,フッ素はエナメル質結晶に取り込まれ,酸の攻撃に対して強い結晶をつくることが,最も重要な役割だと考えられてきた.しかしながらこの作用は,今ではフッ素が関与する脱灰の抑制と再石灰化の増強に比べると重要性は低いということが知られている.

すなわちエナメル質結晶の部分的な溶解によるミネラルロスは,溶液(結晶間液)中にフッ素が存在することによって,著明に阻害される.フッ素は酸とともにプラークからエナメル質の小孔に拡散していき,結晶表面がミネラルロスをしないように働く.また,脱灰後のpHが上昇しているときに結晶表面に溶液としてフッ素が存在していれば,溶解したカルシウムやリン酸イオンを集めて沈殿させたり,フルオロアパタイト様の結晶物質を成長させたりする.


Douglas Bratthall

3月13日 3:30 PM〜5:00 PM

世界各国とくに欧米工業国におけるカリオロジーと医療制度D. Bratthallの様子

わずか二,三十年前,スウェーデンは世界のなかでも最も齲蝕有病者率の高い国であった.これが1997年には,12歳児の一人あたりDFTが,先進工業国のなかで最も低いレベルの1.0になったのである.この国では,いくつかのヨーロッパの国々と同様に,齲蝕が劇的に減少したのである.この劇的な齲蝕減少の理由は何か,どんな施策が採用されたのか.そして何故,だれによって?

何がどのように起こったかの理解,現在何をしているのか,そのケアシステムの理解は,私たちを歯科の歴史,すなわち偉大な歴史的業績を振り返ることに,そして興味深い研究に,そればかりでなく長い論争を振り返ることに導かざるをえないだろう.

一日目(13日)の私の講演では,カリオロジーにおけるいくつかの重大な出来事,そのいくつかは日本でも深くかかわりのある出来事に光を当てよう.

3月14日 9:00 AM〜10:00 AM

齲蝕の細菌学と病因論を整理する

1日目の講演が,齲蝕の全体的な公衆衛生レベルの見方であるのに対し,2日目には個々の症例やカリエスリスクを判定する可能性に多くの時間を割きたい.カリエスリスクを論じるには,微生物学的な見地だけでなく,多くのファクターを検討する必要がある.当然のことながら各々のファクターの“重みづけ”やカリエスリスクの凝縮された評価を手に入れることが難しい.私たちは“カリオグラム”と呼ばれる新しい双方向的なコンピュータ・ソフトを開発した.このソフトを日本語でも使えるようになったので,これを紹介したい.

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