
小林 清吾
日本大学教授
(松戸歯学部衛生学教室)
1946年 新潟県に生まれる
1971年 新潟大学歯学部卒業
1998年 日本大学教授(松戸歯学部衛生学教室) 現在に至る
所属学会
日大歯学会(理事)、日本口腔衛生学会(幹事/フッ化物応用研究委員会委員)、日本病理学会、日本障害者歯科学会、日本公衆衛生学会、日本小児保健学会、日本歯科医学教育学会、FDI、IADR、APHA(American
Public Health Association)、AAPHD(American Association of Public Health
Dentistry)、AAPD(Asian Academy of Public Dentistry) |
わが国の専門家のフッ化物に関する認識の問題点
新世紀を迎えるにあたって、日本歯科医学会は「口腔保健とフッ化物応用:答申」を発表した。「わが国でのフッ化物応用推進を推奨」し、「そのために口腔保健専門職の合意形成と確立を図ること」が期待されるとしている。時同じく、歯科大学/当会員を対象としたフッ化物に関する意識調査結果を得た。今回は、本調査結果と関連情報をもとに、わが国の歯科医学専門家のフッ化物に関する理解の問題点を中心に検討した。
- わが国における齲蝕予防とフッ化物応用の問題点
齲蝕予防の現状と問題点:歯磨き法に頼りすぎている、十代後半に齲蝕急増、要介護者の残存歯齲蝕。
フッ化物利用の現状と問題点:局所応用法が実施され、全身応用法は皆無、公衆衛生特性の優れたフッ化物利用法(水道水フッ化物添加/スクールベースフッ化物洗口法)の早期実施、普及拡大が望まれる。
- 歯科医学専門家のフッ化物応用に関する理解の問題点
歯科医学専門家のフッ化物利用受け入れ姿勢:フッ素利用に関する一般的知識は浸透してきた。しかし、水道水フッ化物添加等の公衆衛生特性に優れた方法についての支持率(横浜市歯科医師:34.7%、鶴本)、またこれを公的施策として優先する選択率(歯科大学教員:29.1%、会員:24.6%、岡)はきわめて低い。
水道水フッ化物添加の受け入れをはばむ意見:科学的誤情報、必要性・利益の無視、予防対策の普及は歯科医師の経済を脅かす(短絡)、調整した水道水は個人の権利を侵害する(誤解釈)、政治的に難しいことは無理(独断)、等などがある。
今後の対策:日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本口腔衛生学会に加え、厚生省、医学会を含めた保健機関の推奨が望まれる。歯学教育の充実が不可欠。マスコミによる情報開示、問題提起は大きな後押しになるものと考えられる。
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Douglas Bratthall
マルメ大学教授(歯学部齲蝕学教室)
1938年
スウェーデン・イエテボリに生まれる
1963年
University of Lund, School of Dentistry, Malm, Sweden卒業(DDS)
1972年
University of Goeborg, Faculty of Odontology, Goeborg, Sweden卒業(Ph. D)
1979年
Professor, Department of Cariology, Faculty of Odontology, University of
Lund, Sweden
1994年
Project leader at the Sweden National Board of Health and Welfare |
う蝕予防とフッ化物の利用
-- 国際的動向、過去・現在
フッ化物を公衆衛生の手段として使用することの恩恵については、過去50年間、明快な解釈がなされ、論証されてきた。WHOが発行したいくつかの出版物のなかで、良好な歯科健康を維持するためには適切なフッ化物の使用が重要であるということが明確に述べられている。また世界的な観点から、この簡単な公衆衛生の手段が当然用いられてしかるべき規模では、いまだ実施されていないということに言及している。
多くの先進国では、フッ化物の使用は公衆衛生の行政監督諸機関から、考えられるなかで最も有効な健康促進の方法の一つとして長い間受け入れられ、認められてきた。フッ化物の恩恵は、歯磨剤、洗口剤、およびその他多くの補助的製品を含むフッ素添加製品の使用を通じて広められてきた。多くの国で見られるう蝕の発生率および罹患率低下の主な理由がフッ化物の使用にあるということは、歯科健康に携わる専門家の大半が認めていることである。
疫学的データからは、はるかに改善した状況が見て取れるが、いまだに高いう蝕発生率を有する集団もある。これらのリスクグループのために特別の予防法が必要であり、フッ化物は疾患をコントロールするためのそのようなプログラムでもまた重要な役割を担う。
発展途上国において、う蝕罹患率は一定地域住民および国ごとに、もしくはその集団の中で、様々に異なる。こうした国々でう蝕に罹患している者は、専門的支援が極度に不足していることもあり、状況は非常に深刻である。こうしたところでは、それぞれに異なった地域住民のニーズと目的に合わせ、的確で受け入れられるフッ化物使用のための手段を見いだすことが重要である。
講演では世界各地でのフッ化物の使用についてその実状を示し、そして考えられるリスクを最小にする一方、その利益をいかにして最大限に引き出すかということについて検討する。 |

J M ten Cate
教授・ACTA副所長(予防歯科学)
1949年
Castricum, the Netherlandsに生まれる
1971年
Bachelor of Science Degree, State University of Groningen, Speciality: Chemistry
and Physics
1974年
Doctoral Degree, State University of Groningen Specialty: Physical Chemistry,
Crystallography, Polymer Chemistry
1979年 Ph.D., State University of Groningen, The Netherlands. Thesis: Remineralization
of enamel lesions, a study of the physico-chemical mechanism.
1996年 Associate Dean, ACTA.
1997年 ProRector University of Amsterdam |
カリエスコントロールにおけるフッ化物の働き
--生化学的側面に焦点をあてて
過去30年間において、ほとんどの西欧諸国ではう蝕の罹患率が低下した。WHOの西暦2000年までの歯科健康目標の一つ(12歳児のDMFT=3)は、オランダにおいてはすでに何年も前に達成されている。現在の12歳児のDMFT指数は0.9である(日本では3.6)。
一般的に、この低下はフッ素添加歯磨剤の普及によるものと言える。フッ素添加歯磨剤でのブラッシングによって、唾液および歯垢中のフッ素イオンレベルが向上する。歯の組織周辺にある歯液中のフッ化物の増大はわずかでも、う蝕に実質的な効果を及ぼす。う蝕に及ぼすフッ化物の効果についての理論的根拠は、フッ化物の作用で酸の攻撃による脱灰・溶解が低減することと、pHが中性に近くなったときの唾液からのミネラル沈着(再石灰化)が促進されることである。
う蝕予防においてはこの知識を生かし、こうした効果を促進するためにフッ素添加製品の使用を患者に奨めるべきである。これは、フッ素添加歯磨剤によるブラッシングを頻繁に行い、口腔内のフッ素濃度を維持することで達成でき、もしくはこれに取って代わるものとして、フッ化物の口腔内への供給を持続するような他の製品を利用することでも達成可能となる。
フッ化物が口腔内健康に有益であると初めて示されたのは、フッ素含有飲料水の研究においてであった。飲料水中に天然に含まれるフッ化物によって、生理学や毒性学などに関するフッ化物の長期効果についての包括的研究が可能となった。これらの研究は確固たるもので、ただ一つの副作用として5ppm以上の濃度のフッ化物を投与した場合、フッ素症を発症する可能性があるということが示された。
フッ化物を歯磨剤、洗口剤、局所塗布として使用した場合には、通常、フッ素症は発症しない。ほとんどのデータがフッ化物がう蝕予防にもっとも効果的な方法であり、また使用するのに安全な物質であるということを証明している。講演では、う蝕の病因論に関するフッ化物の効果、および様々なフッ化物利用による治療(歯磨剤、洗口剤、フッ素徐放剤)の有効性についても情報を提供する。 |