日本ヘルスケア歯科研究会

歯科衛生士法改正に関する提言書

社団法人 日本歯科医師会
会長 大久保満男 殿

私どもでは、歯科医療関係者および歯科診療所に来院する患者さんに呼びかけ、「歯科衛生士法のあいまいな解釈によって歯科衛生士業務が不当に制限されることがないよう」また「歯科衛生士の業務範囲を、今日の歯科医学が求めるものとするために、歯科衛生士法を速やかに改正することを」柳澤厚生労働大臣に求める 48,588名の陳情署名を、本日(平成19年6月4日)大臣あて提出いたしました(別紙陳情趣旨)。法改正の要望が、貴会および関連団体から提出されることが速やかな法改正の条件となることは言うまでもありません。歯科医療分野のコンプライアンス意識および自己改革意識の低さに社会の批判が集まっている折、あらゆる機会を使って、自己改革の意欲を示すことが求められております。貴会のご尽力を側面的に応援する意図をもって、歯科衛生士法改正を提言いたします。

歯科衛生士法改正についてのご提言

1.  歯科衛生士法の改正をご検討ください
 歯科衛生士法は、昭和23年に歯科疾患の予防処置をする専門技術者の保健所への配置を意図して制定され、その後平成元年の第八次改正をもって現在のかたちになっていますが、職務(定義)を継ぎ接ぎして拡大したものの、職業理念が明らかでなく、また誤解を招きやすい詳細な制限が文言に残されています。
 口腔関連疾患の病因論の解明とともに歯科保健・医療は大きく変化し、歯科衛生士の教育年限が延長され教育内容が充実し、また生活の質の維持改善を求める国民の要望は極めて大きなものへと変化しています。また高齢者の在宅介護が国の大きな方針となり、家庭で「口から食べる」ことを支える専門家の活躍が期待されています。歯科医療分野の専門職の職務を拡大することは、歯科保健医療の質を高め、国民の健康と生活の質を改善する上で極めて重要です。
 そこで、歯科衛生士が公衆衛生に貢献する専門職であることを宣言し、また保健活動とともに胸を張って傷病の治療に従事できるように歯科衛生士法を改正する具体的な活動に着手されることを提案します。

同法第2条改正試案
歯科衛生士とは、厚生労働大臣の免許を受けて以下に定める業務を掌ることによって、公衆衛生の向上に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保する行為を業とする者を言う。
一、歯科医師との連携の下に口腔に関連する保健指導および予防処置を行う。
二、主治の歯科医師または医師の指示の下に傷病者および高齢者に対する口腔に関連する療養上の世話または診療の補助を行う

2. 歯科衛生士業務範囲をめぐる混乱
歯周治療において、科学的に明確に立証されている、もっとも有効で重要な対処法はプラークコントロールです。とくに歯肉縁下のプラークコントロールは歯周病の治療と進行の抑制に極めて重要です。このため歯科衛生士は、診療所では、歯周病の患者の歯肉縁下の器具操作(インスツルメンテーション)を重要な職務として行っています。ところが歯科衛生士が歯周病の治療行為として歯肉縁下の歯根面の沈着物を除去すること(いわゆるスケーリング・ルートプレーニング)や歯周組織の検査(プロービング検査)をすることが法令違反であるとする社会保険事務局指導医療官の行政指導や歯科医師会役員の見解が幾つかの地域で報告されています。これは法解釈の明らかな誤りですが、同法第2条に混乱を生む素地があります。
 歯科衛生士の職務に無理解な歯科医師は、歯科衛生士の業務範囲を著しく狭く限定する傾向がありますが、今日歯科衛生士は、歯科診療所において、人手不足を補う存在ではなく、むしろ患者により近い視点をもって患者の声に耳を傾け、患者の生活行動を十分に理解して行動変容を促す役割とともに、硬組織特有のバイオフィルムの機械的除去を行う専門的な職種としてその役割が期待されています。同時に口腔ケアを通じた高齢者の健康の維持増進とQOLの改善に大きな役割を果たすことが求められています。
 因みに政府は、健康増進法にもとづく国民健康づくり運動「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」において定期的な歯石除去や歯面清掃を受ける人の増加を掲げています(ベースライン55〜64歳の15.9%が5年で目標値の30%を超え43.2%に達した)。このような事実を理解せず、歯肉縁下の器具操作が業務範囲の逸脱であるかのような発言が技官や歯科医師会役員にあることは極めて問題です。
 日本ヘルスケア歯科研究会では、診療所における専門的なメインテナンスケアを普及させる活動とともに、それがどのように患者さんの健康に寄与するか成果を集めて報告しています。さらに本会では、臨床経験のある歯科衛生士に実習教育を行い厳しい実地検定によって歯科衛生士の臨床能力の向上にも努めているところです。また特定非営利活動法人日本歯周病学会の歯周病認定歯科衛生士制度では、歯周病患者の治療例の症例報告(いうまでもなく歯科衛生士による検査、診断、治療行為がなければ治療例は報告できない)を認定要件として求めています。
 歯科衛生士法は、こうした実状を踏まえ、歯科衛生士の職業理念を明確に謳い、その業務を患者本位に改め、また業務について間違った解釈が広まらないように積極的にその役割を掲げるべきです。

3. 歯科衛生士法に定められた業務規定
 歯科衛生士法は、口腔疾患予防処置の専門技術者を保健所に配置するため、昭和23年に制定されました。養成期間1年の教育も始まったばかりで、「歯科医師の直接の指導の下に」という条件と「歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物」の除去という法律の条文では通常考えられない具体的で厳しい限定の下に予防処置を行うことが許されました。
 その後、経済の復興に伴って診療所に勤務する歯科衛生士が増加したため、昭和30年に歯科診療の補助が業務に加えられました。「診療の補助」とは、保健師助産師看護師法で「療養上の世話または診療の補助」が看護師または准看護師でなければできない」とされている規定(保助看法第5、6条)の例外規定として歯科診療の補助に限って歯科衛生士の業務となっているもので、この業務の追加により極めて広汎な医行為が許容されることになったわけです。
 しかし、この改正当時は教育年限も1年で、歯科診療の人手不足を補うというニュアンスが強く残っていました。当時、歯周病の病因も明らかではなく、プラークコントロールを中心にした治療概念もまったくなかったことは言うまでもありません。当時の歯周病の治療は歯肉切除と歯の固定であったため歯科衛生士が関与する余地はほとんどありませんでした。
 また昭和40年代には受診患者数の増加に対して歯科医師数が不足していたため、歯科衛生士の業務範囲の逸脱が生じ、しばしば問題になりました。その当時に、診療の補助として許される範囲について厚生省の見解(昭和41年8月15日鳥取県厚生部長あて厚生省医務局歯科衛生課長回答)が示されていますが、疑義問い合わせそのものが、歯科診療の人手不足を補う観点から業務を列挙したもので、こうしたやりとりが却って歯科衛生士業務の理解を歪める結果につながっています。その後、教育年限が2年に延長され、それとほぼ並行して1年制の助手養成が始まりました。
 老人保健法の施行に合わせて業務範囲の再検討が始まり、昭和61年にいわゆる榊原調査報告書が作成されました。この調査報告書では、保健指導を業務に加え、免許を都道府県知事から厚生大臣に変えるだけでなく、予防処置業務についても立法以来の厳しい限定を外す(「歯科医師の直接の指導」および「正常な歯茎の」)ことが指摘されましたが、平成元年の法改正に際して、この厳しい限定は温存されてしまいました。
 目下、歯科衛生士教育年限が3年に延長されるのに伴って歯科衛生士法の見直しが日本歯科医師会から日本歯科医学会に諮問され、昭和23年に始まった継ぎ接ぎの業務範囲を見直すべき時期が訪れています。学問の進歩と時代の要請に応じた歯科衛生士法の改正が必要になっています。

4. 歯周病患者の歯肉縁下のインスツルメンテーション
 歯周病患者の歯肉縁下のインスツルメンテーションは、現行法では、歯科診療の補助として認められています。ところが、歯科衛生士法第2条1項において「歯科医師の直接の指導の下に」「正常な歯茎の遊離縁下の」と器具操作が限定されていることを取り上げて、それ以外の行為を禁止するかのように解釈する向きがあります。今日では、「正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によって除去すること」すなわち浅い歯肉溝内のインスツルメンテーションは歯石を触知した場合だけに制限すべき処置であり、必ずしも推奨されていません。このような科学的実証によって左右される事柄を法律で取り上げることは、そもそも適切ではありません。
歯科衛生士法第2条二項の2は、保健師助産師看護師法第31条第1項及び第32条の例外規定として、歯科診療の補助が刑法35条の正当行為(目的の正当性、手段の相当性、法益の衡量、患者の承諾による違法性の阻却)となることを認めたものであり、さらに「歯科医師の指示」がなければ危険な診療の補助をしてはならないこと(第13条の2)が確認されています。いわゆる医行為のカテゴリーにあって、患者に危害を加える恐れの大きな行為(絶対的医行為)は、この診療補助に含まれません。絶対的医行為の範囲は、時代によって変化するグレーゾーン(最近では平成14年の局長通知で、看護師の静脈注射は絶対的医行為ではないと変更された)ですが、いわゆる榊原調査報告書では@歯の切削A切開や抜歯などの観血的処置B精密印象を取ることや咬合採得C歯石除去術のための鎮痛処置を除いた薬剤の皮下注射や歯肉注射とされ、これが絶対的歯科医行為の範例となっています。すなわち歯科衛生士に十分な技倆があり、歯科医師がそれを理解して指示をするならば、スケーリング・ルートプレーニングや検査などは適切な診療の補助業務です。

平成19年6月4日
日本ヘルスケア歯科研究会 代表 藤木省三

参 考

歯科衛生士法

第13条の2
歯科衛生士は、歯科診療の補助をなすに当たっては、主治の歯科医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は医薬品について指示をなし、その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずる恐れのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当てをすることは差し支えない。

第2条
この法律において「歯科衛生士」とは、厚生大臣の免許を受けて、歯科医師(歯科医業をなす事のできる医師を含む。以下同じ。)の直接の指導の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする女子を言う。
一 歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によって除去すること。
二 歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること。
2 歯科衛生士は保健婦助産婦看護婦法第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、歯科診療の補助をなすこと業とする事ができる。
3 歯科衛生士は、前2項に規定する業務のほか、歯科衛生士の名称を用いて、歯科保健指導をなすことを業とすることができる。


陳情署名報告トップ

厚生労働大臣あて陳情趣意書
社団法人日本歯科医師会あて「歯科衛生士法改正に関する提言書」社団法人日本歯科衛生士会あて「提言書」


日本ヘルスケア歯科研究会トップページへ

Copyright© 2007 The Japan Health Care Dental Association. All rights reserved.