わが国で一般的な日本学校歯科医会のう蝕の判定基準(C0〜C4)は、う蝕の組織学的所見と疾患の重症度を直線的に(翻訳注;1対1に対応するように、あるいは線形的linear modelとして)捉えたもので、変化するリスクを考慮していない。このような「う蝕は自然治癒することなく、放置すれば進行する」という古い疾患モデルを改める新しい判定基準を検討する必要がある。う蝕の検出基準をこのような考え方で国際的に統一するためICDASの策定作業が始まった。ICDASUでは、C1の中にう蝕が進行停止したものや、たんなる着色した健全歯が多数含まれていることを前提とし、観察所見を細かく分類し、切削処置の適応ではなく再石灰化促進の適応となるう蝕病変を確立しようとしている。わが国学童の歯の過剰切削傾向を改めるためには、ICDASのわが国における普及が有益である。
定期的なメインテナンスによって歯の喪失を抑制できることが知られている。しかし、来院患者を詳細にみれば、一部ではあるがメインテナンス管理下にあったにもかかわらず多数の歯を喪失してしまうケースがあることに気づく。来院して15年以上経過した患者のうち臨床記録の確実な中年期の268人を考察したところ、全体の約1割の人(27人)が約半数の歯(218本/全喪失歯数414本)を失っていることがわかった。最近の3年間に3回以上のメインテナンスを受けた患者を“メインテナンスあり”群、0回を“メインテナンスなし”群として比較したところ、約20年の間に“メインテナンスなし”群で3.3本、“メインテナンスあり”群が1.4本の平均喪失歯数となり、2倍以上開きがあり、改めてメインテナンスの重要性を確認することができた。“メインテナンスあり”群にも、喪失歯5本以上の多数歯喪失者が18人いた。その特徴は、重度に進行した歯周炎、多数の修復であった。
ブラッシング法の改善によって著明な歯肉形態の改善を経験した。歯肉退縮が気になることを主訴に来院された男性患者は、初診時には硬めの歯ブラシでフォーンズ法のような歯ブラシの動かし方をしていた。柔らかめの歯ブラシを用いて、歯肉退縮部位は軽く横に動かし、歯間部は歯ブラシの柄を縦に持って磨いてもらうことにした。3週、4ヵ月と指導を続け観察したが、10ヵ月後、プラークが落としきれず歯肉炎を起こしていたため、集中的に来院を促し、歯頚部にブラシを当てる感覚を習得してもらった。2年後くらいから退縮している歯肉の改善が認められ、次第に改善して4年8ヵ月後には、露出根面がほぼ被覆された。
エナメル質形成不全(MIH)が関与するう蝕は、比較的稀と考えられている。しかし、う蝕が高い確率でコントロールできる状況になると、エナメル質形成不全のような先天的な疾患を早期に発見して、的確な時期に過不足なく処置を行うことの重要性が増す。そこで、エナメル質形成不全の8症例を供覧した。Jasulaityteらの総説では、MIHの発現率は、5.9%〜25%である。この5年間の12歳児108名の来院者の口腔内デジタル写真をPCモニタで精査した。不透明感(opacity、white opacity)、黄色不透明感(yellow opacity)、黄茶不透明感(yellow-brown demarcated opacity)、エナメル崩壊(enamel loss)の状態にある歯をエナメル質形成不全歯とし、前歯と大臼歯だけでなく、小臼歯に発現したものも数えると、108名中12名(11.1%)に認められた。う蝕の減少に伴い健全歯は増加しているが、一定の割合で発現するMIH、中心結節、さらに深い裂溝などについては、その発現率を知った上で、口腔内診査をおこなうことが重要であろう。
日本ヘルスケア歯科研究会では、定期管理型診療の影響をあまり受けていない診療所受診患者の状態を知ることを目的に初診患者のデータを集計している。この調査結果は、わが国の歯科診療所受診患者の標準になるものである。今回は2007年1月1日から2007年12月31日までに全国26カ所の調査協力診療所に来院した10,982名について、年齢、性別、初診時年齢のほか、20歳以上については、DMF歯数、残存歯数、歯周病進行度(日本ヘルスケア歯科研究会のプロトコールによる)、喫煙経験、喫煙開始年齢、現在の喫煙の有無、初診時における過去の喫煙総本数を集計した。初診患者の5歳から20歳におけるDMFTに関しては、昨年と同様の傾向だが、15歳から18歳が昨年よりも低くなっている。また40歳代、50歳代での禁煙した人の割合が増えた。
患者の健康にとっての歯科医療の価値を客観的に評価するため、全身のQOLを測定するための指標であるSF-8、口腔のQOLを測定するGOHAI(General Oral Health Assessment Index)指標を用いて、口腔の状態、歯科的介入、患者さんの受診パターンなどとQOLの関わりを探る。この報告は、ベースライン調査から1年経過した時点での再調査の報告である。おもに、治療を継続している患者と治療を中断した者との間に、QOL指標などに差異が認められるかどうかを解析し、また治療中断に至る患者の背景因子の探索を行うことを目的とした。平成19年9月から12月の4ヵ月間、全国26か所の協力施設に、ベースライン調査に参加していただいた患者さんが来院されたときに質問票調査と診療記録からのデータ収集を実施し、さらに、この期間に来院がない人、治療を中断されている人に対しては郵送法によって質問票調査を行い、治療を継続されている患者さんと中断者との間の各種指標の差を調べた。その結果、中断する患者さんには、若年者や比較的残存歯数の多い方が多い。継続している患者さんはベースライン時点でのQOL指標は高いものの、1年後の追跡では低くなっていることが分かった。反対に、治療を中断した患者さんには、継続受診者よりもQOL指標が改善している人が多かった。
会誌発行一覧