「う蝕に対して過剰な介入が行われている一方で、歯周病への介入はあまりにも未熟」と指摘できる。すなわち初期・中等度の歯周病について、しっかりした診査と介入がなされていない。そのため、多くの歯周治療が費用対効果のバランスのとれない結果に帰しているのではないかと推察される。本稿では、歯周病の診査について現在どのような診査から何を得ることができるか、近い将来どのような診断が可能になるか、その方向性を展望したものである。とくに筆者は非外科処置でどこまで治療が可能かに焦点を絞って研究を続けてきたので、あらゆるリスク因子を見出すことが重要であった。臨床診査の意義と診査結果の解釈について総括的に整理するため、次の項目についてについて総説的に述べる。現在の歯周診査、classification of periodontal diseases in 1999 Workshop、PPD、BOPの意味と意義、炎症による歯の移動、歯の移動が咬合に与える影響と動揺が炎症および歯周病の進行に与える影響などの相互関係、咬合力によるセメント剥離、治療に対する応答の個人差。
地域歯科保健事業に先だって、地域の現状を知るために必要な情報を入手して「地域診断」を行うことが必要である。とくに齲蝕有病者率が低下してきた現状では、地域の平均値を見ても、その地域の実態を正しく把握できないだけでなく現状を見誤る可能性がある。日本の保健行政はこどもの年齢によって、文部科学省と厚生労働省に分かれ、市と県分かれていて一貫したデータがない。そこで、八千代市歯科医師会の衛生担当理事として、地域歯科保健のデータベースを作成し、市の健康まちづくりプランに活かした。地域歯科保健状況の情報収集によって、市内12歳児DMFTはDMFT1以下の生徒が過半数となっているが、DMFTが4以上の小児が1/4を占めることや、12歳児DMFTが高く未処置者率の高い地区では3歳児歯科健診の受診率も低い傾向が認められ、地域差の広がりが明らかになった。
歯科診療所を受診した成人2,269名について、服薬実態と口腔内の状態および口渇などについて調査した。研究の目的は、a 服薬は唾液・分泌量・口渇と関連があるのか? b 唾液分泌量低下・口渇はう蝕、歯周病と関連があるのか? c どの薬剤が口渇・唾液分泌量低下と関連するのか? d 唾液を分析することによって何がわかるのか? の4点である。<c>については、Mochiduki Mが報告する。<d>については、現在継続中で、結果の一部をNomura Y & Saito Iが報告する。 調査対象者2,144名のうち、多くの人は服薬しており、「服薬なし」は786名にすぎない。一方、口渇の自覚症状は、ほとんどが「ない」と答えており、「よくある」すなわち毎日口渇を感じるような重症例は84名と少ない。これに「たまにある」を加えても約10%である。歯科受診患者がかかえている疾患は高血圧症が最も多く、2,144名中463名である。口渇自覚症状と咀嚼障害の有無、ストレスの有無、服薬、基礎疾患、年齢、喫煙および歯科疾患との相関を調べた。咀嚼機能は口渇に関連があった。ストレスは精神科で用いる問診票CMIから抜粋した項目で調べたが、ほとんどの項目で有意差が認められた。一方、同じ手法で5分間刺激唾液量とストレスの関係を分析したが、有意差は認められなかった。したがって、ストレスは口渇と関係するが、唾液分泌量とは関係がないといえる。服薬は口渇と関係するが、薬の口渇作用の有無は刺激唾液量とあまり関係が認められなかった。年齢は口渇と唾液分泌量の双方に関係していた。喫煙は唾液分泌量と明らかな関係を有していた。口渇の自覚症状と唾液分泌量は、ともにう蝕と関連があったが歯周病の進行とは関わりが認められなかった。
36歯科診療所の2,269名の協力を得て、歯科診療所を受診する成人が、どのような薬剤を服用しているか、その中に口渇の副作用を有するどのような薬剤があるかを調査した。服薬していた薬剤の約半数は口渇の副作用が報告されていた。対象数が少なく不確実であるが、抗精神病薬、抗うつ薬、抗ムスカリン作用薬などでは、口渇が発現していない。これとは反対に、循環器系治療薬やH2ブロッカーなど投与例が多い薬剤では、口渇がかなり認められた。ただし、これらの薬物は、ほとんどが3〜6剤の併用投与である。この調査では、薬の種類が多岐にわたり、口渇および刺激唾液量の関係を解析することはかなり困難であったが、最も投与例が多かったアムロジピン(高血圧の治療薬、一般名・ベシル酸アムロジピン)についてみると、口渇について顕著な訴えはなく、刺激唾液分泌量の減少は認められなかった。次に投与例が多かったメバロチン(一般名・プラバスタチンナトリウム)は口渇の副作用が報告されていない薬剤だが、今回の調査では「口渇がよくある」と回答した人が非常に多く、「メバロチンだけで口渇が出る」という人が20%近く存在するという結果になった。メバロチンについて口渇の副作用を検証する必要があろう。唾液分泌も同様で、メバロチンは、唾液分泌量の低下がアムロジピンよりもより強い傾向が認められた。
情動ストレスを生化学検査により客観的に評価するために唾液中のコルチゾールおよびChromogranin A(CgA)が注目される。歯科診療所受診患者の服薬実態調査に際して採取した741人の唾液サンプルについて、この二つの物質量を測定し、健常者の唾液中の正常範囲の設定を試みた。この分布の95%の人が含まれる範囲を正常範囲とするとクロモグラニンAの正常範囲は0-46pg/mlと設定できた。また、これらの物質の臨床診断マーカとしての有用性を検討するため、鶴見大学歯学部附属病院のドライマウス外来に来院した患者でドライマウスの原因が特定できなかった患者(情動ストレスが関与すると想像される)について、年齢、性別をマッチングさせ、服薬実態調査の唾液中のコルチゾール、クロモグラニンAの測定量と比較した。その結果ドライマウス患者では明らかに高い値を示した。
幼児期から20歳まで、できるだけむし歯による充填や補綴物を少なくし、健康な歯肉とバランスのとれた歯列を獲得できれば、その後の成人期の口腔管理は比較的容易になるが、実状は思春期以降に多くの歯が修復処置を受ける結果となっている。子どもたちの健康について、学校における保健教育の果たす役割は大きい。そこで、現在日本で使われている小学校、中学校、高等学校のすべての保健体育の教科書、さらに小学校については教師用指導書を調査した。その内容を資料として整理した。歯科保健についての記載があるのは小学校のみであり、その内容も簡単なものが多いことが明らかになった。
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