会誌

会誌アブストラクト

vol.2 no.1/index

vol.2 no.1/アブストラクト

う窩形成前カリエスコントロールのためのクリティカルパス 熊谷 崇/熊谷ふじ子

私たちは、発症前の診断や治療に踏み出すとき、主訴に対応するだけの診療とは、まったく別次元の問題に直面する。私たちの診断は、どの程度確実なのか? 予防プログラムはどのくらい有効なのか?患者に、満足できる結果を請け合うことができるのか?もし、カリエスリスクを診査したとしても、そのリスクに応じた合理的な予防プログラムが立案できないとしたら、カリエスリスク判定はいわばモチベーションの道具にしかならない。また、確実な結果を得るために、私たちは常に過剰な予防に追い込まれることになる。そうであるならば、リスク判定をしていても、予防管理の費用効果は極めて低いままにとどまるであろう。そこで、過剰予防(over prevention)を防ぎ、診療所における予防管理の適切な目安を得るために、トータルリスクに着目し、カリエスフリー達成者のカリエスリスクを分析した。トータルリスクとは(1)唾液緩衝能の判定(Dentobuff Strip)、(2)唾液中のmutans streptococci 数の計測(Strip mutans)、(3)唾液中のlactobacilli量の判定(Dentocult-LB)のほか、(4)刺激唾液の分泌速度、(5)飲食の回数、(6)プラーク蓄積量、(7)フッ化物の使用状況の7項目の各々0〜3までの4段階の指数を単純合計したものである。調査対象とした10歳以上の永久歯カリエスフリー者308人は、そのすべてが日吉歯科診療所において、継続的なメインテナンス下にあった者である。この308人のメインテナンス時のトータルリスクスコアの平均値は11.4、永久歯カリエスフリーとなったメインテナンス時の平均値は7.8、11以下の者が282人(91.6%)であった。また調査対象とほぼ同時期に来院した初診患者(300人)を対照として参照したところ、そのトータルリスクはカリエスフリー達成者の初診時トータルリスクとほぼ同じ(11.3)であった。これらの事実から、もしカリオロジーに基づいた齲窩形成前診断とその対応が十分に行われ、ハイリスク者のリスクをコントロールし、トータルリスクを11以下に維持できたならば、カリエスフリーを達成する可能性が大きいと推測できる。

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長期咬合管理におけるカリエスリスク評価に基づいた個別口腔衛生プログラム 伊藤智恵/楠本雅子/田浦勝彦

成長期不正咬合者の歯列をカリエスフリーの健全歯列に育成するために、我々は、カリエスリスクの科学的判定法に基づく検査システムを用い、新しい個別口腔衛生プログラムを確立することを検討している。今回は、現在実行している個別口腔衛生プログラムの有効性について評価した。

本プログラムでは、カリオロジーに則って得られたリスクファクターを総合的に評価し、患者個人の齲蝕病因に関する診断を行い、リスクの程度に応じた具体的な予防プログラムを作成、実行する。さらに、各リスクファクターの経時的変化を追跡、再評価している。本プログラムを導入し、長期咬合管理第1期治療を行った患者64症例について、後ろ向き追跡調査を行ったところ、以下のような結果が得られた。(1)LBスコアと齲蝕有病状況とは有意に相関が見られた。(2)LBスコアが高い群には、複数のパーソナル・ケアが処方されていた。(3)LBスコアは、患者の現在のカリエスリスクを最も端的に表現する指標と捉えることができた。(4)矯正装置の装着に伴ってLBスコアは上昇する傾向を示したが、その一方で低スコアを保持する患者が30%存在し、他のリスクファクターの変化にも注目すべきことが示唆された。(5)調査期間中の新生永久歯齲蝕は少なく、本プログラムは有効であることが確認された。

本研究の結果、個別口腔衛生プログラムの実践によって、長期咬合管理期間中にカリエスリスクを悪化させずに、予知性のある齲蝕予防管理を進めることが可能であることが示唆された。

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沖縄県一離島村の伊是名小中学校におけるカリエスリスク・プロフィール 中島 健/安細敏弘

われわれは、平成9年度より沖縄県内の離島村である伊是名村の小中学校(生徒数275名)において、毎年全員にサリバテスト(Orion Diagnostica社製造)を用いたカリエスリスク調査を行い、その結果をもとに歯科保健指導ならびに歯科治療を行っている。ここでは平成9年度に実施した小中学校のカリエスリスク調査から得られたカリエスリスク・プロフィールについて報告する。唾液中のmutans streptococciが検出限界に達しないことを示すSMスコア=0の者が、ほぼ半数にのぼった。またプラークスコアとSMスコアには関連がみられず、飲食回数とLBスコアの相関が認められた。児童のカリエスリスク調査により教職員や父兄とカリエスリスクの知識を共有することができ、教育効果を実感している。

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学校歯科保健活動によるう蝕罹患率の改善
─酒田・飽海地区における取り組みとその成果 五十嵐正大

1999年度11月の調査で酒田市の小学校6年生のDMFT指数は1.1、カリエスフリー(DMFT=0)者率は55.6%となった。また近隣のあくみ郡(平田町、松山町、八幡町、遊佐町)においても、同様の成績(DMFT;1.2、カリエスフリー者率;49.5%)を示した。鳥海山(ちょうかいさん)の山麓から最上川(もがみがわ)に至る庄内平野北部に広がるこの地域は、有数の農業地域であり、この地域が属する山形県の三歳児う蝕罹患者率は、つねにわが国ワースト3に数えられてきた。酒田・あくみ地区における、う蝕罹患状況の改善は、主に学校保健活動における養護教諭および学校歯科医の意欲的な取り組みと健診基準の変更、予防管理型にシフトしたホームデンティストの働きの総合的な影響によるものと考えられる。とくに健診基準の見直しが、地区歯科医師会をつうじて積極的に進められたことが大きな成果をもたらした。児童のカリエスリスクに大きな幅が認められる現在、学校、家庭およびホームデンティストの連携が好結果をもたらすものと考えられる。

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フッ化物に関する専門家・会員の意識調査報告 フッ化物調査小委員会

わが国では、う蝕予防のためにフッ化物の有用性について論じ、応用法を広めることが、未だに一種タブーのように扱われている。これはフッ化物をめぐる意見の対立があたかもイデオロギーの対立のように演じられてきた結果と考えられる。すなわち上水道フッ素化を目標とする少数の活動家と強硬にフッ素化に反対する運動家の対立があるが、この意見の対立が、フッ化物の応用そのものにとって障害となっている。このような不毛の議論は、歯科医学・医療専門家のコンセンサスがまとめられていないことに一因があると言える。そこで本会は、日本のすべての歯科大学・歯学部(29校)の予防歯科・口腔衛生を含む全臨床系講座および病理、生化学、薬理学の講座の教授、助教授、講師の方々に対して、「専門家のフッ化物応用の認識に関する調査」を行った。有効送付先は827人、有効回答は256人(31.0%)であった。また併せて本会会員にも同様な調査を行った。その結果を報告し、考察する。

わが国の意識の高い歯科医師の大多数が、「う蝕の発症を未然に防ぐことが、歯科医療関係者のもっとも重大な関心事のひとつ」だと考えており、「フッ化物の応用がう蝕の発症予防とう蝕の進行停止に大きな効果をもつことは膨大な疫学研究によって実証されている」と認識していることが明らかになった。またフッ化物の応用法としては、歯磨剤、プロフェッショナルケア、フッ素洗口が支持された。とくに歯磨剤は回答者のほぼ80%の支持を得た。これと対照的に上水道フッ素化は27%にとどまった。

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