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会誌アブストラクト

vol.8 no.1/index

vol.8 no.1/アブストラクト

歯科における予防の考え方、進め方 花田信弘(国立保健医療科学院口腔保健部長)

従来、う蝕も歯周病も不可逆的疾患であって治ることがない、と考えられてきた。しかし歯科疾患が不可逆的なのは、病気の進行に対して診断が遅れ、手遅れになってから介入してきたためである。可逆的な疾病の状態を診断・治療して元通りに戻す、これを一般に二次予防と言うが、近年、う蝕と歯周病に関して治癒可能な段階で予防介入し、実績が蓄積されている。二次予防の保険給付のためには、客観的な基準値の確立が必要であろう。歯科疾患は、感染症ではあるが同時に生活習慣病であり、慢性感染症に分類される。そこで「疾病の医療」と歯科が目指すべき「健康づくりの医療、QOLの医療」を分けて考えることを提案したい。歯の健康は、健康づくりと疾病予防の双方に関わる共通リスク因子であるという意味で特別の位置にある。歯科の二次予防を拡大することが、人々のQOLを高めると同時に、全身の健康に貢献することを述べた。

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日本の歯科疾患の実態 歯科疾患実態調査・8020財団の抜歯調査などから
安藤雄一(国立保健医療科学院口腔保健部)

日本においては歯科疾患の実態を把握するために様々な調査が行われているが、歯科疾患実態調査を元に最新調査の知見と個々の調査の特性を紹介する。歯科疾患実態調査は、1957年から6年に1回の頻度で実施され、日本人の歯の状況について半世紀にわたる推移を知ることができる。2005年の調査では、歯の喪失状況の改善や、う蝕の減少傾向が一段と進んだ。無歯顎者率の推移では、55〜64歳層は、1975年には5人に1人(20%)が無歯顎であったが、2005年には2%まで減少した。75歳以上でも、かつて過半数だった無歯顎者が、いまや1/3程度に低下している。その原因には歯科医師数の増加と1980年代からのフッ化物配合歯磨剤の普及が影響しているものと推測される。しかしながら、歯科疾患実態調査では、調査の受診率が減少し続けているという問題点がある。そのため、歯科の健康に関するするほかの統計調査が重要性を増している。

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Doプロジェクトのスタート 杉山精一

カリエスリスクコントロールなど、リスクコントロールの考え方は歯科医療関係者だけでなく、広く国民に知られるようになってきた。しかし、現実の歯科診療において疾患の進行を未然に防ぐリスクコントロールの医療を実践するには、さまざまな障害がある。そのもっとも大きな障害は修復に偏った出来高払いの医療保険である。しかも医療の評価は、健康アウトカムによってではなく、費消した(請求された)費用の名目によってなされている。レセプトのオンライン化によって、その傾向は決定的になるだろう。そのような費用の名目評価に代わるものとして、健康指標や臨床指標をアウトカムとして評価する活動に積極的に取り組むことにした。その情報を、患者や社会に還元し、そのような一連の活動によって歯科医療の社会的評価を高めるプロジェクト” the Japan Healthcare Dental Outcome Research Projects"に着手する。以下の調査1〜4は、その最初の試みである。なお、この研究には13都道府県32診療所が参加した。

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調査1 歯科診療所における初診来院患者の実態調査 杉山精一

初診の段階で予防を主目的に受診する患者は少ない。このため、どのような状態の初診患者が来院しているのか、初診患者の実態を把握することは、診療システムのベースラインとして重要である。従来、このような目的では、フィールドの調査である歯科疾患実態調査を参考にすることが多かった。本研究会の会員診療所では、患者の臨床情報を共通のプロトコルによりデータベースとして蓄積している。そこで、データベースから個人を特定できる情報を除外した上、初診時の患者実態を知るために必要な項目のみを回収するテンプレートを作成し、効率的に多施設の患者データを収集した。この方法により、地域や診療所による偏りの少ない13都道府県30診療所の患者データが収集できた。このデータをクリーニングした後、性別、年齢別現在歯数、年齢階層別歯周病進行度について集計した。

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調査2 診療機関における子供の定期管理のう蝕予防成績に関する調査報告 藤木省三/杉山精一

日本ヘルスケア歯科研究会では設立以来、子供の永久歯のう蝕発症予防に力を入れてきた。発症予防にはリスク評価と共に定期的な管理が不可欠と考えられるが、今まで定期的に受診している患者と不定期受診患者の臨床指標を比較調査したことがなかった。また、小学校低学年から中学生の期間を前期と後期に分けると、同じように定期管理をおこなっていても前期に比較して後期での発症が多いように感じられる。そこで、6歳から10歳、11歳から15歳の観察期間における定期受診と不定期受診でのDMFTの増加をヘルスケア研究会会員診療所において調査した。

結果は、前期、後期共に不定期受診に比較して定期受診の方が有意にDMFTの増加イベントが少ないことが明らかになった。特に、DMFTの増加が2以上、3以上の重症イベントにおいては差が顕著であった。前期、後期の年齢階層の影響では、定期受診、不定期受診共に前期に比較して後期のう蝕発症イベントが多いことがわかった。

今後、年齢階層間の差の原因、定期受診と不定期受診の差の原因を追求することでより有効なう蝕予防を目指すことが求められている。

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調査3 歯科診療所での成人のメインテナンスと歯の喪失についての調査 杉山精一

日本の歯科診療所におけるメインテナンスケア(定期健診と歯肉縁下を含むバイオフィルムの定期的なdebridement)の成果についての報告は極めて少ない。そこで、成人のメインテナンスと喪失歯数の関係について検討するため、15歯科診療所の40歳以上のメインテナンス患者(5年間以上継続、最終検査日が2005年9月1日以降の2,869人)について、年齢、初診時う蝕経験歯数、初診時現在歯数、歯周病進行度、初期治療時残存歯数、最近来院時残存歯数、メインテナンス期間中喪失歯数、メインテナンス経過年数を調査した。その結果、各年代のメインテナンス10〜15年間の10年あたり平均喪失歯数は、40代で0.19±0.499、50代で0.81±1.331、60代で1.11±1.469、70代で1.53±2.172であった。

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調査4 口腔関連QOL評価について
−その意義とベースライン調査の概要 内藤 徹(福岡歯科大学総合歯科講師)

定期的なメインテナンス管理は、歯の喪失などの口腔関連指標に関して良好に働くものと評価されている。しかし口腔の状態は、食生活を左右するばかりでなく、会話や外見などに大きな役割を果たしているため、成人のメインテナンスケアについては、生活の質の評価を重視すべきである。このような視点から、日本ヘルスケア歯科研究会会員の全国28ヵ所の施設で、2006年8月20日から9月20日まで、40歳以上の受診者を対象に、メインテナンスケアにおける口腔の状況と各種QOL尺度との関連の調査を行った。協力を依頼した患者4,317名のうち、解析に組み入れることのできたものは3,238名(有効回答率75.0%)。ベースラインデータからは、次のことが明らかになった。(1)残存歯数が多いほど、対合接触が保持されているほど、身体的QOLは高い。A<丸数字>精神的QOLは口腔の状態との関連は低い。(2)口腔関連QOLは、残存歯数、DMFT、アイヒナー分類、PD、定期検診などの口腔関連指標と強い関係を示した。(3)口腔関連QOLは抑うつと深い関連を示した。(4)年間のメインテナンス回数と口腔QOLは関連するが、全身QOLとの関連はみられない。今後これらの患者の追跡を行い、メインテナンス治療がQOL指標の改善や維持にどの程度の効果があるのかを検討する予定である。

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